雑誌(サライ)に取材された記事

「ほかの職人さんの作った品物に手を加えるのは、ものすごく抵抗がありました。古いものだとなおさらですね。自分たちがこの作品に手を加える資格があるのか…、そう考えると二の足を踏んでいたんです」

と、京漆器職人の石川光治さん(50歳)はいう。どれだけ職人が物作りに心血を注いだのかは、同じ道の職人であればこそわかる。石川さんは昔の職人を思いやるあまり、修復の依頼を断り続けてきた。
 しかし5年前、一大決心をして、店内に修復専門店の受け付け窓口『思い出工房』を作る。自社でかかえる職人さんを始め、京都市内の伝統工芸士などに声をかけ、本格的に修復の注文を受ける態勢を整えたのだ。
 「漆器は塗り直しをして丁寧に使っていけば、数百年も保つものです。そのため、先代から受け継いだものを使ってきて、今度は息子の嫁に使ってほしいから直したい、というようなお客さんがたくさんいらっしゃったんです。物を直すということより、思い出を修復することが大切だと気が付きまして、修復し始める決心をしました」
 時を経てきたものは古さを残したまま、比較的新しいものは新品に近い状態に。これが修復のモットー。石川さんは、昔ながらの顔料を集め、磨き方を工夫して、古さを残しながら塗り替える手法を獲得していった。
 また、新製品同様に再生させるため、経験豊かな職人さんにも協力を仰ぐ。「職人というのは、常に新しい品物を作っていたいもんなんです。だまされたんですわ。石川さんに。」(笑)
 という酒井哲さん(60歳)は、この道45年の塗師。石川さんの知恵袋として修復の相談に乗るとともに、石川さんが手に負えない仕事を請け負って修復に力を貸している。
 「極端な話、1万円程度で買ったお椀を5万円かけて直すという方もいらっしゃいます。思い出というのはお金では買えないものなのですね。ある90歳になるおばあちゃんの茶托を直し終えて、手渡した時、゙帰ってきた ゛とおっしゃって頬擦りされたんです。娘時代にそれでお菓子を食べていたそうなんですよ・・・」